〜荒川務さんレポート〜

荒川務さんが演じた役について役別に印象を書いてみました。
演じた年代で少しづつ印象が変わっているものもあります。
注)このレポートは、私の独断と偏見に基づいています。
   実際に舞台を見て異議申立てがあっても、その点ご容赦下さい。

ウエストサイド物語:リフ
ハンス:ニールス
コーラスライン:ボビー
コーラスライン:ザック

35ステップス
夢から醒めた夢:メソ&配達人
CATS〜ラムタムタガー(白タガー&黒タガー)
CATS:マンカストラップ
クレイジー・フォー・ユー:ボビー
クレイジー・フォー・ユー : ベラ・ザングラー
美女と野獣:ビースト
オンディーヌ:ハンス
ソング&ダンス
ハムレット:レイアティーズ
オーバー・ザ・センチュリー
コンタクト:ワイリー
マンマ・ミーア!:サム・カーマイケル
ヴェニスの商人:アントーニオー
異国の丘:九重秀隆
ブラックコメディ:プリンズリー
はだかの王様:ペテン師スリッパ
リトルマーメイド:スカットル
リトルマーメイド:セバスチャン
サウンド・オブ・ミュージック:マックスおじさん
番外編:太陽の日曜日



<ウェストサイド物語〜リフ>

荒川務さんの劇団四季デビュー作品で、私には特別の思い入れがあります。
ドキドキしながら待っている私の前で幕が開く。
すると、そこには横顔の荒川さんが。
リフの動きでジェット団が動き始め、ジェットとシャークの関係がダンスで表現されていきます。
そのシャープなダンス。
リフの「行け!」という低音の声。
もう最初のシーンで改めて完全にノックアウトされてしまいました。

荒川さんの演じるリフは、クールな親分肌と理知的な采配でジェット団を仕切っています。
その一方、兄貴分のトニーの前では甘えたりもするかわいい弟分となる。
どんなお転婆でも女性は女性として接する、そんな生真面目さと自分を罵られるより、
親友を罵倒される時の方がつい頭に血が上ってしまうという人情味を持った役なのです。
あのシャープできれいなダンスと意外なほど激しく熱いリフを演じる荒川さんを
演技に深みと幅が出てきた今、また是非見てみたいと思います。

2008年、13年ぶりに再びリフとして登場。
さすがに青臭い少年という感じではなくなってしまいましたが、頼りがいのあるジェット団のリーダーを見せてくれました。
反面トニーの前ではかわいい弟分になったり、決闘を恐がる仲間にも暖かな目を向けたり、以前よりリフの心の中がよく伝わってくるようになりました。


<ハンス〜ニールス>

アンデルセンが憧れるマダム・ドーロの夫ニールスを演じていました。
荒川さんがバレエをはじめたのは21歳からと聞きますが
優雅な踊りで素敵なニールスでした。
不良少年リフの直後に演じたせいかちょっと気障なニールスのキャラクターが
見ていてどこかこそばゆいような感じがしました。
でも、マダムドーロを見つめる暖かな目に
荒川さんの性格が出ているような気がしました。

<コーラスライン〜ボビー>

中流の上か上流の中、という普通の家庭に育ったひねくれたボビーを演じています。
以前少し硬いかな?と思っていた語り口調も、自然な感じになっていました。

自分を語って欲しいと言うザックの注文に、自分で演出した「素晴らしい人生」と本当の「つまらない人生」どちらがいいか聞いてしまうひねくれ者。
他の人が話すとき、ちょっと皮肉の混じった茶々を入れたりもしますが、自分の人生を語っているみんなを見つめるまなざしはとても優しい。
こちらまでつい微笑みたくなるようないい表情をして話を聞いています。

ポールがひざを痛めて倒れたシーンで後ろから支えている心配そうな様子や
「もし踊れなくなったら」というザックの問いに暗くなった雰囲気をなごませようと「そうしたら、仕事をさがそうよ!」と明るく言ってみたり。
荒川さんのボビーはそんな優しさが見え隠れするボビーです。
そんな彼も踊りのときは全力投球!
一生懸命踊る姿にボビーの生真面目さを見るような気がします。

冒頭の最終選考への結果発表のシーンで
自分の番号が呼ばれるまで唇を噛み締めながら乗り出すように聞いている姿を見て
四季に入る前(いや入ってからも)
こんな風にオーディションを受けて頑張ってきたのだろうな・・・と思いました。

自分の子供の頃を「異常だった」と言い、自分の人生の物語を創作してしまうなんて・・・
いったいどんな思いを抱えながらボビーは育ったのだろう、とふと考えてしまいました。

<コーラスライン〜ザック>
とても人間味豊かな、そして渋くて素敵なザックです。
ザックは声だけ聴いている時間が長いのですが、その声も表情豊かです。
出来るものなら舞台上にザック席をつくてもらって、話している様子を見てみたいと思ってしまいます。

抑えた話し方をしているせいか特に前半は厳しさが前面に出ていますが、途中舞台に残したキャシーと話して想いをぶつけた後は人間味が出てきて心境の変化がよくわかります。

特に視線で伝わる気持ちがとても良いんです。
まずは知り合いとのアイコンタクト。
オーディションは情け容赦がないのですが、結構アイコンタクトや笑顔もあって、怖い演出家でも信頼関係があるのがわかります。(そういえば相手も結構軽口たたいてますよね)
一次審査でキャシーを合格させる前には、ちょっと戸惑うような考えるような視線の動きも。
キャシーに対しては合格させることに迷いがあるのが、あちこちの視線で伝わってきました。
キャシーにとっては過去の事でも、ザックにとっては今も現在進行形で、「もう終わったことなのに」と言われてそらした視線で傷ついたことも伝わってきました。
それでもキャシーのためにきっぱり「そうだ」と。これを言う前の間が切なくて。

不合格発表でシーラの名前を呼ぶ前の間。
ここにキャシーがいなければシーラが合格していたのかしら・・・と考えてしまいました。
名前を呼んだわけではないのに、なぜかキャシーへの気持ちを感じてしまう。やはり切なさを演じさせたら一品ですね。

踊るシーンでは、そのダンスがとにかく綺麗です!!
最初のジャズコンビネーションは厳しい顔でシャープな踊り、最後のワンでは満面の笑みで本当にきれいな踊りを見せてくれます。
芯がしっかりしていて、帽子を持つ指の先からポイントしている足の先まで頭の角度も含め、これこそ見本です!という踊りです。そしとても楽しそうに踊っている様子が印象的でした。
やっぱりもっと踊って演じる役を見たいと思う、ザックです。

<35ステップス>

劇団創立35周年記念に上演された35ステップスでは、様々な俳優がいろんな場面に登場していました。
荒川さんは主にダンスが活躍する場面に登場。

女たちのウェストサイド物語ではリフさながらのシャープなダンスを。
シャンソンコーナーのセ・シ・ボンではまだその時四季で本格的に取り入れていなかったタップの腕(足さばき?)を。
リトルナイトミュージック(?)では、華麗なバレエと
様々なダンスを披露してくれました。
日曜はダメよの「イリア・ダーリン」では
イリアの羽織ったコートに入った髪をさりげなく直してあげているのになぜか目が行ってしまいました。(*^^*;;;

加えて地方公演やオータムバージョンでは
「ともだちはいいもんだ」では優しく語り掛けるような歌を
ミュージカル名作集で甘い雰囲気で歌う恋人の歌を
最後には「スーパースター」のリードヴォーカルで乗りの良い歌を聞かせてくれ、
まさに踊りに歌にと魅力満載でした。

<夢から醒めた夢〜メソ>

受験戦争に疲れて自殺してしまったというメソを演じています。
常に皆から一歩離れたところで膝を抱えて座り込んでいるというキャラクター。
さだまさし調の「メソの悲しみ」では、出口の見えない受験生の辛さを伝えてくれます。

荒川さんのメソはいつも寂しさをただよわせて自信なげにしているんですが、暖かくて優しい心遣いも時々見せる・・・。
思わずかばいたくなるような存在です。
でも人の差し出す手を背中で拒んでいるんですよね。。。

生真面目ゆえに受験戦争に疲れて自殺してしまった、
メソの複雑な胸の内がそっと伝わるような演技です。

<夢から醒めた夢〜配達人>
みんなに夢の種を配り、ピコをマコたちのいる夢の世界へいざなう配達人。
配達人は演じる人によって、人間界に近いところから夢(黄泉?)の世界まで立ち位置がいろいろだと思いますが、荒川さんの配達人は一番人間界に近いところにいるような気がします。
ピコと話しているときの眼差しがとても暖かくて、でもマコの物語では運命を知っているせいか厳しいような寂しいような表情をしていたりします。
夢を配るのは表の仕事、でも実はマコのように人間界に心残りがあって彷徨える魂を救うのが本当の仕事のような、暖かな配達人を見せてくれます。

<CATS〜ラムタムタガー>

<白タガー>
ちょっと気位の高いところもあるスマートなタガーですが
しっぽをギターやマイク代りにしたり、爽やかロックンローラーという感じ。
綺麗な高音が伸びる「ごむぅぅぅぅ〜」は
取り巻きの猫ならずとも、ゴロゴロしたくなってしまいます。

一人高みで「太陽燦燦照る日には、全く何にもしないのさ」なタガーは
自分にあたっていたライトが消えていくと
「おい!もっと照らせよ!お〜〜い!!」とばかりのリアクション。

皆が歌い踊っているのに一人客席を見下ろして遊んでいたりして。
いつも我が道を行っているようだけど何故か憎めないキャラクターで
カーテンコールでもお茶目な面を見せてくれています。

手拍子のリードをとりながら、タイミングをずらしてお客さんをひっかけるくせに
その後ガバッと土下座して謝ってしまう律儀なタガーです。

<黒タガー>
1998年福岡よりリニューアルしたCATS。
荒川さんのラムタムタガーも黒タガーにリニューアルして再び名古屋からお目見えしました。

ソング&ダンスに出演以来、遊びと存在感がぐっと増しました。
そして雰囲気も前と違って、完全なすね者!
雰囲気も歌も表情も仕草も、よりワイルドに。
仲間の輪を少し離れた外側から片膝立てて眺めている感じ。
でもいつもそういうわけではなくて、
仲間と打ち解けて踊ったりおしゃべりすることもあるし、
そうかと思うと突然輪の外に出て仲間を眺めながら「やってられないよ」っていうように手を振って消えてしまったり。
いるいる!こんな気まぐれな猫(^^)。

黒タガーの「太陽燦燦照る日には」は
踊っている仲間達を尻目に大あくびで居眠りしたり
当たっているライトに消すように合図したり。

そして、すね者タガーは実は子供好き。
客席から連れて来て一緒に踊るのは、子供の事が多いみたいです。
泣き出しそうになる子もいるけれど子供には優しいタガー。
椅子に戻してほっぺをツンとすれば子供も笑顔に。
かと思うと、女性をさらった時にはしっかり壊したり、
お姫様抱っこで席まで連れて行ってしまう、さすがプレイボーイ猫。
裏声の「ごむ〜〜〜」は以前にも増してと〜っっっても長くて音程も七色。
声も甘さと魅力に磨きがかかって、周りの猫達と一緒に客席まで魅了されています。

そうかと思うとグロールタイガーの劇中劇では、
ピンクのバンダナを巻いて「荒くれ部下ども」の一員としてコミカルでかわいいキャラクターで登場しています。
別に何をしているのでもないのですが、あの雰囲気は何なのでしょうね?(*^^*)

時にはドキッとするような色気を感じさせたり
すごく怖い目でグリザベラを見ていたり
ワイルドな歯切れのいい歌で踊っているかと思うと
ミストフェリーズの曲では愛情にあふれたと〜っても優しい歌声を聞かせてくれたり
楽しいパフォーマンスも随所で見せてくれますし
影のリーダーのような存在感の大きなタガーを演じていました。

<CATS〜マンカストラップ>
荒川さんのマンカスは、先頭に立ってみんなを引っ張っていくというよりも
みんなが幸せに暮らせているかどうか暖かく見守りながら
下からしっかり支えているようなリーダー猫です。
仲間達とのアイコンタクトも多くて、コミュニケーションも実に豊か。
普段は仲間にちょっかいかけて遊んでしまうお父さんのような存在ですが、みんなが幸せに暮らすのを妨げるものは許さない。
グリザベラにも「仲間の和を乱す奴は近づくな」と言っているようにも見えます。
荒川さんのマンカスは、マキャビティとの戦いに敗れ暗闇で横たわっている時に自分の傷を舐めない数少ないマンカスです。
うずくまっている時の表情は、傷の痛みに耐えているというより、デュトロノミーや仲間達を守れなかった悔しさのように見えました。
他のマンカスとは少しタイプが違いますが、こんなリーダーのもとなら穏やかに幸せに暮らせそうな気がします。



<クレイジー・フォー・ユー〜ボビー>

荒川さんのボビーは
大切に大切に育てられた良家の無邪気なお坊ちゃま。
とにかくダンスが生活の全てで、
大好きなダンスのためなら周りも見えずに一直線。
劇場の女の子達にはその純真無垢なひたむきさが愛されているんじゃないかと思います。

そんな自分の好きな事しか頭になかったボビーが
デットロックで出会ったポリーに一目惚れ!
そして初めて愛した人の力になるために、
どんな事にも挫けずに一生懸命頑張りその中で成長していく。
荒川さんのボビーは、そんなひたむきな一生懸命さがとても良く伝わってくるボビーです。

ポリーがザングラーと思って好意を寄せている人物が
実は変装した自分なんだという事を伝えられない複雑な思い、
計略が失敗してポリーに心を残しながらもデッドロックを去って行く時の切ない思い、
戻ったNYで自分のあきらめられない想いを噛み締め
もう一度挑戦しようと決心して想いを込めて叫ぶポリーの名前。
再びデッドロツクに向かおうと決心するまでの心の動き。
そんなボビーの複雑で切ない想いを
仕草が語りかける空気を抱くような柔らかなダンスと、台詞を感じさせる歌や自然な演技で伝えてくれています。

他の出演者と絡んでのコミカルな演技では
その日によって違うネタを見せて笑わせてもくれます。
他の出演者との暖かなキャッチボールがあちこちで見られるのも大きな魅力です。
切ない演技をさせたら右に出る者はいないと言われる荒川さん。
おかしくて楽しい中にも切ない演技と雄弁な踊りで暖かな気持ちにさせてくれます。
時には素なのか演技なのかわからないほど自然体で
もはやすっかり同化してしまったような素敵なボビーを見せてくれます。


<クレイジー・フォー・ユー〜ベラ・ザングラー>
                                                                       


<美女と野獣〜ビースト>

これ見てファンになった人が激増したという、名ビーストです。
細やかな表現でビーストの複雑な思いが伝わってきます。

これまでのイメージからは程遠いほどの恐ろしい声での登場。
その中でも所々に野獣になってしまった悲しみといらだちが覗きます。
そしてベルに惹かれていく過程の中で、観客に伝わる切ない思い。

荒川さんの演じるビーストは、とてもシャイでどこかコミカルです。
散ってゆくバラを見ながら「何とかしなくちゃ」と言う時の切羽詰った思い、
断られるのが怖くてなかなかベルに気持ちを伝えられない切なさ、
ベルの優しい態度にとまどいながらも恐る恐る手を重ねてみる時のときめき、
エスコートする時の固まってしまうほどの緊張、
父親のもとにベルを返した後の絶望感、
そして人間に戻ったときのとまどいと喜び。

見る人がいつかどこかで感じたことのある切ない感情に重なるものがあって
共感を呼ぶのではないでしょうか。
毎回新しい気持ちで演じているという荒川さんの言葉通り、見るたびに少しづつ違う発見があります。

荒川さんはヴォーカルの人と思っている人も多いようですが
実はヴォーカル比重の高い役はこのビーストがはじめて。
1幕最後の「愛せぬならば」は台詞のように語り始め、
最後の♪この身を〜 は独特のハイトーンで伸びやかに歌い上げます。
そして2幕最後の「ふたりの願い」では
ベルといつも綺麗に声が重なって素敵なハーモニーを聞かせてくれています。

<オンディーヌ〜ハンス>

水の精オンディーヌに恋してしまいった騎士ハンス。
初めてのストレートプレイの大きな役です。
どんなふうに演じるのかと心配しつつ、また期待も抱いて待っていましたが、
見ていくうちに、そんな心配はどこかへ消えてしまいました。
とても透明感のある素敵なハンスを見せてくれました。

最初演技が硬いかなぁ、と思っていたのですが
人間社会での自分立場とオンディーヌへの愛情の狭間で揺れ動く感情や
オンディーヌへの愛情を捨てきれず裏切られたと思う心の痛み
そして彼女の本当の気持ちがわかった後の切ない表情など
ビーストでも見せてくれた細やかで複雑な感情の表現に
すっかり釘付けになってしまいました。

特に3幕を見ているときの私はずっと心が痛くて、息を詰めてしまっていました。
終わりの頃は自分でもなぜかわからないながらも
突然涙がこぼれてきて、びっくりしてしまいました。

<ソング&ダンス>

S&D全公演パーフェクト出演の荒川さんは、とても楽しそうに歌ったり踊ったりしています。
その笑顔に誘われて、
ついつい荒川務ワールドに浸かってしまった人も多いようです。
色々なタイプの歌と踊りを見事に演じ分けて見せてくれて
観ている人達から「Mr.S&D」という称号をもらいました。

荒川さんの指パッチンが素敵に響き、
楽しそうに他の出演者と歌い踊る「Slap that Bass」
とても楽しそうなお祭り気分の「パリの縁日」
男性ヴォーカルパート4人による洒落た掛け合いの「Let’s Have Lunch」などなど・・・

ちょっと気取った荒川さんのリードヴォーカルで始まる「Be Our Gest」では
ステッキで刻む細かなリズムのステップや、
フォーメーションが次々と変化するダンスでも荒川さんが動きのポイントとなっています。
そして荒川さんのよく通る「Be Our Gest!」の声で1幕が降ります。
名古屋公演のパンフレットの表紙は、
この曲の衣装を着た優しい横顔の荒川さんです。

「ラムタムタガー」これはもう荒川さんパワー全開のナンバーです。
客席を風の様に駆け抜けて行って
毎回いろいろなパターンでタガー席と呼ばれる席に座る女性にアプローチしています。
思わず喜ぶ人、緊張のあまり固まってしまう人など女性の反応も様々。
時には女性のハンカチや上着を舞台に持って上がってしまい
返す振りをしてなかなか返さなかったりとプレイボーイぶりを発揮する時も。
裏声が素敵に伸びる♪ごむ〜〜〜のところで、
自分に目もくれずに素通りしていった女性を
「え!?」というように見送る表情は何回見ても思わず笑ってしまいます。
元気一杯のこの曲の後
続いてのメモリーをじっと聞いている横顔もまた素敵なんです。

シャンソンのような「今宵は星空」では
囁きかけるような魅惑的な声で、大人の男性の魅力を充分に味あわせてくれました。
マイクスタンドに添えた手に何故か惹き付けられる人も。。。

おそらく誰もが意外だったであろう「彼らの心は天国へ」では
あの1曲の中でとても素晴らしいユダを演じてくれました。
高音が伸びやかな歌に加えて、表情がとてもいいんです!
ジーザスを思うユダの苦悩が強く伝わってきて
思わず手に力が入り、胸が苦しくなってしまいました。
しばらくユダの感覚が心に残ってしまったくらい。。。
是非本公演で荒川さんのユダを見てみたいと思いました。

ダンスパートの加藤敬二さんが怪我でお休みになった名古屋・福岡・札幌公演と、
やはり加藤さんが抜けた2000年前半の全国公演では
荒川さんのダンスが2曲加わりました。

ひとつは「リチーのテーマ」でのタップダンス。
細かなステップを丁寧に踏んでいて、久しぶりのタップを見せてくれました。
そして後ろから2人の仲間が出てきて
荒川兄貴からの「いいかい?行くよ?」と言っているような合図の後、
悪ガキ(失礼!)3人での楽しそうなタップ!
まるでWSSでリフが仲間達と踊り出す時みたいでした。
この時の荒川さん、なんとも言えずに楽しそうで悪ガキっぽくて。
他の曲では見せない無邪気なとても良い表情をしていました。

それから「They Can't Take that Away from Me」では
とても優しい歌声を聞かせてくれました。
踊りもとても柔らかで優しくて・・・
クレイジー・フォー・ユーの物語さながらに
夢の中でポリーと二人踊っているような、素敵で優雅でそして切なくなる踊りでした。
見終わってとても幸せな気分になるような踊りだったんです。

東京リターン公演で登場したオリジナルミュージカル。
その中の「夢を配る」では
白い手袋をしてまるで夢の中を泳いでいるようなしぐさで登場。
ソロの部分はほんの少しなのに、なぜか荒川さんの印象の強い曲です。
はじめと最後の人差し指を立てたポーズや
両腕をかかえて内股の♪恐い夢〜ポーズなど
ポイントポイントでのポーズがなぜか印象的。
曲が終った後、舞台の最上段に残り
まわりの空気を右手で掴み取るようなしぐさの後
フッと息を吹きかけて・・・次の夢の世界へいざなってくれます。

「ソウルギダユウ」ではスッと座った姿や表情が凛としていてとても素敵でした。
ソロの部分もまるで謡いを思わせたり、和物も意外と似合うのに驚きました。

「スーパースター」ではタガー以上のはじけっぶりで、
その迫力に見ている人みんなひき込まれてしまいました。
舞台を縦横無尽に動き回り、
シャウトや裏声でのハーモニーも使いまくって
まさにショーの最後を飾るのにふさわしい盛りあがりを見せてくれました。

荒川さん抜きでは考えられないと言われたS&D。
ダンスパートボスのソロまで兼任した公演などは特に出ずっぱりで大変だったと思いますが、
そんな様子も出さずに素敵なステージを見せてくれました。
今回のようなショーも最高ですが、お芝居の中で演じる姿が是非見たい!
ストレートプレイや歌の多い役も見たいし、
ウェストサイドやクレージー・フォー・ユー等のダンスミュージカル
そしてフレッド・アステアのような柔らかなタップのダンスも
是非荒川さんで見てみたいなぁ、と思いました。

<ハムレット〜レイアーティーズ>

シェイクスピアのストレートプレイ「ハムレット」では
オフィーリアの兄レイアーティーズを演じました。
荒川さんのお兄様は、とても優しくて暖かで真っ直ぐな
そして内に熱い心を秘めたレイアーティーズです。

1幕では
妹オフィーリアに話し掛けている時の眼差しがとても暖かくて
本当に妹思いの理知的な優しいお兄様という感じ。
まっすぐな眼差しで父のポローニアスの言葉を受け止めている様子や
オフィーリアと交わす暖かな視線からも
家族の強い絆を感じさせてくれます。
暖かな微笑みが見られるのは1幕のほんの少しだけなのですが
荒川さんのレイアーティーズを象徴する
とても印象の強い表情です。
そしてその暖かさと家族との強い絆が
2幕のレイアーティーズの行動の基になっているんですよね。

レイアーティーズは後ろ向きで表情がよく見えないシーンが多いのですけれど、
2幕では悲しみ・怒り・葛藤渦巻くとても複雑な想いが
その背中からもとてもよく伝わってきました。
家族の死に対する大きな悲しみと、
直情的ゆえに敵討ちの為の策略を組んだものの
こんなやり方で討ってしまっていいのか、本当に敵は彼で良いのか、
思い迷い葛藤に苦しむ姿が
お兄様モードで見ていると辛くて可愛そうで。。。
こちらまで胸が痛くなってしまいました。

特に印象的なシーンを3つ。。。
・オフィーリアの死を知らされたシーン
 「オフィーリア、可愛そうに!」と泣き崩れた後
 水に飲まれて死んだ妹、もう水(涙)はたくさんだろうと言いながら
 必死で涙をこらえているその様子から
 押さえた中にも胸を締め付けられるような悲しみが伝わってきて。
 その場を去った後、
 押さえても押さえてもこみ上げてくる涙を
 必死でこらえているだろうその姿が浮かんでくるようでした。
・墓場のシーン
 鎮魂の鐘を鳴らすだけで、賛美歌もたむけの言葉もない葬儀に
 牧師に「それだけですか?」「それ以上はもう出来ないのですか?」
 せめてもう少しだけでも手厚く妹を送ってやりたいという兄としての想いと
 なんともいえない強い悲しみと激しい心が
 押さえたこの言葉に詰まっていて、とても心が痛くなります。
・剣の試合の中での「でも気がとがめて!」
 まるで泣いているような激しく吐いたこの言葉。
 どんな事をしても家族の敵を討ちたいという思いと、
 卑怯な策略を自分が使っているという罪の意識の板ばさみになってしまった
 レイアーティーズの辛い苦悩が凝縮されているようでした。

いろんなすれ違いがパズルのように積み重なって
策略をもってハムレットを討つ事を何度もやめようとしながらも
結局卑怯とも言える方法で傷つけざるを得ないように追い詰められていくレイアーティーズ。
本来騎士道を真っ直ぐ貫いていたレイアーティーズにとって
どんなにか苦悩に満ちた事だったでしょう。
どれか一つでも少しタイミングがずれていれば、違う結果となっていたでしょうに。
それが運命と言うものかもしれないけど
見ていて本当に本当に辛かったです。
そう思いながらも、またあのお兄様に会いたいと思ってしまう。。。
そんな素敵なレイアーティーズを演じていました。

<オーバー・ザ・センチュリー〜ヴォーカルパート>

初演で芝さんがやっていたパートに東京リターンから参加しました。
芝さんとのキャラクターの違いが良い意味でよく出ていたナンバーもありましたが、
前回のソング&ダンスと違い、
曲の持つカラーや音域が今一つ荒川さんに合っていない曲もあって
ちょっと複雑な気持ちでした。
それでもひとつひとつのナンバーの持つ物語を素敵に演じて見せてくれています。

スキャットの曲では、
トランペットパートのようなメロディーを
ジャズの乗りでスウィングしながら歌っています。
舞台からはける時は
暗闇の中、下で歌う早水さんをふと見つめるように途中で立ち止まってから
ちょっと帽子に手を当てて歩み去ります。
こんな小さな所にも物語を作ってしまうところが荒川さんらしいなと思った大好きなシーンです。
荒川さんの“さぁ、カーニバルが始まるよ!”という明るい声で始まる
「アンダー・ザ・シー」はすこーーんと抜けるような青空を連想させる、
Mr.S&Dらしい楽しいお祭りの曲です。
まわりの人達との掛け合いも日替りで、
お互いにその時その時のキャッチボールをを楽しんでいるよう。
途中観客参加のシーンでは、
その様子を舞台正面奥のドラム缶に座って
とっても柔らかくて暖かなとてもいい笑顔で見守っています。
S&DやOTCのようなショー的要素の強い場面で見せる弾ける笑顔とは違いますが
私はこの時の表情がとっても大好きです。
政治家の駆け引きを男性4人が歌い上げる「マダムギロチン」では
ダブルのスーツをびしっと着て
裏に何か企みを持っていそうな野心のある表情・眼差し。
荒川さんの演じる悪役も見てみたいと思わせるような政治家でした。

そして、
なんと言っても最高の物語「Mr.ボージャングル」!
初演で芝さんが歌っているのを見ながら、
荒川さんで見てみたいと思ったナンバーですが、
期待に違わず、1曲の中に沢山の物語と想いを込めて語り掛けてくれました。
このナンバーは、
昔からダンサーであるボージャングルをずっと見つめ、尊敬してきた男が
年老いて酔いつぶれている彼に向かってそっと囁きかけている曲です。
荒川さんの語る言葉の中にボージャングルの歩んできた人生が見えるようで
それを見守りつづけていた男の暖かな眼差しが感じられて
そして今でもボージャングルの事を尊敬し
大好きなんだなぁという男の気持ちがひしひしと伝わってくる・・・
そんな歌い方をしているんです。
声も表情も優しくて暖かくて・・・。
相手の全てを丸ごと包み込んで抱きしめるような暖かな表情・歌い方なんです。
下手をすると寂しい郷愁だけになってしまいそうな曲ですが
荒川さんが歌うこのナンバーはなんとも悲しくて切なくて、
でも最後に心の中に何か暖かな物がそっと残るような感じがします。
最近ショー的要素の強い演目に出演する事の多い荒川さんですが
感情表現が細やかで、まさに本領発揮といえる絶品のナンバーです。

ダンスパートのボスの加藤さんが抜けるバージョンでは、
振付家とダンサーの夢「TOO DARN HOT」で振付家を演じました。
荒川さん演じる振付家は、ひとりひとりのダンサーをきちんと良く見ていて
相手の良いところをしっかり引き出してくれそうな暖かな振付家でした。 
ひとりで舞台の下手から上手に踊る短いシーンがあるのですが
その時の表情がとても楽しそうで。
もっとこんな風に踊りまくる役も、もっと見たいと思ってしまいました。

2004年の全国ツアーではメンバー変更もありまたまた出番が増えていました。
曲名不明の曲でのタップ(私は勝手に炭鉱タップと呼んでいますが)では
今までのタップと違って渋いというか、大人な雰囲気のタップを見せてくれました。
最後のリズムダンスでドラムをたたいている人を見てびっくり!
荒川さんが叩いていたのです。
ドラムを叩く人とは思ってもみなかったので本当にびっくりしましたが
楽しそうにダンサーを見ながら力強く叩いていて
やはり楽しそうな笑顔をしていました。
(左利きなので普通と左右逆のセッティングでした)


<コンタクト〜マイケル・ワイリー>

今まではどこか少年、青年、若さを感じさせる役が多かったのですが、
ワイリーは“大人の男性の魅力”を感じる役でした。
死を選ぼうとするほどの絶望感から、
人に惹かれ新しい自分を見つけるようになるまでの心の動きがとても良く伝わってくる
そしてやっぱり切なさを演じさせたら右に出る者はないという
荒川さんならではのワイリーを演じていました。

はじめの方では
生きる目標を見失ってしまったどうしようもない絶望感が伝わってきて
彼の心に広がる空虚な空気が舞台の上にも広がっているようでしたし、
死を目前にした彼の辛さが、見ている側の胸にも突き刺さるようでした。
そんな彼がバーで黄色いドレスの女と出会い
彼女に惹かれて行くその心の動きがとても良く伝わってきました。
はじめは見ているだけで嬉しそうだったのが
彼女と話したいと思うようになり、
全身の力をふりしぼって彼女とコンタクトをとろうとしつつ
あと一歩がどうしても踏み出せずに苦しむ姿は切なくて
つい応援したくなるようでした。

物語はバーとワイリーの部屋を行き来するのですが
自分の部屋にいつの間にか戻った時
ふと自分が首を吊ろうとした紐が手に触れて
現実に戻ってしまったのに気が付きむせび泣く姿は、
こちらまで本当に辛く悲しくなるようでした。
必死に彼女を求めた末、二人を裂こうとする力にも負けずに
自分の殻を破ってやっと彼女と踊ることが出来た時には
ラインが柔らかで優しい雰囲気の、荒川さんらしい踊りを見せてくれました。

最後のシーンで、
現実の世界の中でも一歩を踏み出しやっと彼女と踊る事が出来た時、
まるで泣きそうになりながら幸せを噛み締めているような表情をして
そおっと大切そうにリードしながら踊る様子はとても優しくて。
その様子が本当に幸せそうで
新しい自分を見つける事が出来たワイリーの幸福感が伝わってきました。
袋小路にはまってしまったワイリーの辛さ・切なさが痛いほどに伝わってきた後に
やっと彼が見付けた幸せだけに、見ているこちらまで嬉しくなって
最後に何か暖かなものが心の中に残りました。

<マンマ・ミーア!〜サム・カーマイケル>

ABBAのヒット曲で綴ったこのミュージカルでは
ソフィの父親候補の一人建築家のサム・カーマイケルを演じています。
荒川さんの演じるサムは、
自分の良識に照らし合わせながらまじめに行動する心優しきサム。
いつの間にかじんわりと心の中に入り込んでいるような
あとから思い起こすとふわっと暖かな気持ちになるようなサムです。
自分や周りの人の気持ちより常識や理性に従おうとするあまり
その優しさが結果的に周りの人を傷つける原因になっていたりもする。
でもサムの誠実で一生懸命な人柄が伝わってか周りの人たちも暖かです。

婚約者(妻)に誠実であろうとしながらもドナへの想いを捨てきれなかったサム。
自分の感情よりまず常識に照らし合わせて行動しようとするサムだから、
1度は婚約者がいるからと言ってスコットランドに戻っておきながら
婚約者には好きな人がいるから結婚できなくなったと告げ
またギリシャの小島に戻ってきてしまう。
きっとスコットランドに向かう途中、かなり悩んで出した結論なんでしょうね。
でも戻ってみるとドナは他の誰かと出かけて行ったと聞き
きっと打ちひしがれてずぶ濡れの小犬のようになってスコットランドに帰って。
そんなサムを婚約者は受け入れてくれて、サムもそれに答えようとした。
でもドナへの想いをいつまでも捨てきれず。
どんなに誠実であろうとしたって、それでは一緒に連れ添えない。
ということで、二人は別れてしまった。
そんな背景が見えるような気がしました。

この小島に来て
ドナの建てたホテルが自分のスケッチをもとにしていると確信した時の嬉しそうな顔
自分を招待したのがドナじゃないとわかって戸惑う様子
ハリーとビルに囲まれて“でもね”と抗議しようとしながらも
しょうがないなぁ、と受け入れる時の笑顔
スケッチをしている時の一心不乱にペンを走らせている真剣で穏やかな横顔や
スケッチブックに想いを込めるような仕草
その後のドナとのやり取りで
その表情から伝わってくる少しでもドナの力になりたいと思っている気持ち。
“増築なんてけっこうよ!”と言われた後に一瞬見せる表情や
ひとりで子供を育てたりホテルをやっていく大変さを思いやっている言葉と表情。
自分の設計図をもとにホテルを建てたドナに
建物の事を語る時の言葉に込めた想いも見えるような気がしたり。
Knowing me,Knowing youでのソフィを見つめる暖かな目
ドナにプロポーズする時の一生懸命さ etc・・・。
大好きなシーンはいっぱいありますが、
それぞれのシーンで表情や仕草からサムの想いがよく伝わってきて
気持ちがひきこまれてしまいます。

Voulez vous で踊っている時には本当に楽しそうにしています。
物語の中であまり踊れなかった分
カーテンコールではたえずステップを踏んでいるしとても楽しそうです。
舞台の前の方にいる時はもちろん
後ろにいる時もハリーやターニャととても楽しそうに弾けていて
本当に踊る事が好きなんだなぁ、と思ってしまいました。

見終わった時楽しさの他に
何か心がほかほかするような幸せな気分になります。
サムという役自体は地味な普通の男性ですが
こういう役で魅力を発揮するのが荒川さん。
最後にドナがプロポーズを受け入れてくれた時には
ふと気がつくとこちらまで満面の笑顔で幸せになっている…
そんな素敵なサムを見せてくれます。



<ヴェニスの商人〜アントーニオー>

シェイクスピアのストレートプレイ「ヴェニスの商人」では
今までとは一味違う初めてのお髭姿の渋い役で
日下さん演じるシャイロックと対立する商人アントーニオーを演じました。

この役は、シャイロックを嘲ったり嫌悪するシーンがあって、
はじめは今までの役にはない感情だなと思っていましたが、
よく考えてみるとWSSのリフに通じるものがあるかもしれません。
でもその激しさは、リフの激しさも子供の喧嘩と感じる程のものでした。
シャイロックを見てニヤリと笑うシーンがあるのですが
本当に心の底から嘲っているようで、ドキッとしました。

そんな激しさも見せますが、友人の為にはどんな事もする。
恋を語るバサーニオーを見る目は“しかたないな〜”というように穏やかです。
彼のために敵のシャイロックから借金をし
それを返せないために命を失うかもしれない状態に追い込まれますが
それでも恨めしい言葉はひとことも言いません。
友人たちから「あんないい男はこの世にまたといない」
「昔のローマ人気質が息づいている」と言われる人物なのです。

荒川さんの演じるアントーニオーはとても誇りの高い人です。
特に裁判のシーンを見ていてそう感じました。
借金を返せないカタに相手が望んでいるのは自分の体の肉。
そんな理不尽な要求が認められるかどうかという裁判の中で
一貫して凛とした態度を崩さない後姿から、彼を支える誇りの高さが伝わってきました。
でもそんな中にも、言葉と言葉の間の中に崩れそうな揺れる想いもかいま見せてくれました。
裁判までの間、囚われの身になっている時にも
誇りを失わないながらもその姿や言葉の端々から葛藤と苦しみが伝わってきました。

久しぶりのストレートプレイで、その役の心の中にある複雑な想いが自然に伝わってくる、
そんな魅力をしっかり見せてくれました。

日下さんのシャイロックとの対決はかなりの精神力がいったのではないでしょうか。
お芝居の中では凄い対決をしていましたが、
カーテンコールで隣にいる日下さんを見る目に
尊敬のようなとても暖かなものが見えた様な気がしました。


<異国の丘〜九重秀隆>
荒川さんのボチ(九重秀隆)さんは、しっかりした芯を持っていながら柔軟さも併せ持ち、表面は穏やかで、愛と夢と志を心の中に強く持っている人です。

愛玲への想いは切なく、でも胸の中に熱く持っています。
未来を見据えて自分のするべき役割を貫き通そうとする真面目さ、その心の強さを穏やかな様子で包むとても素敵なボチさんを見せてくれました。

NYでのダンスが素敵なのですが、短くてとても残念。
愛玲が中国人とわかった時の戸惑いながらも魅かれる様子、自分が日本の首相の息子と知られた時の愛玲の視線に辛そうにする様子、約束だからと愛玲が広場に来てくれた事に切ないながらも嬉しさを抑えきれない様子など、抑えた表情ながら想いが切なく伝わってきます。

おおらかながら目上の人への敬意を持った礼儀正しい様子は素敵でしたし、物事の本質を見極めて自分のするべき事を貫き通そうとする真面目で強い志と一生懸命さも、いろいろな所から感じられます。
なんとしてでも生き抜いて日本に戻ろうという強い思いがあったのに、例え日本に戻れなくても信義を曲げる事はできないというボチ。
強い気持ちを静かに語る姿が悲しく、無念さが静かに心に落ちてきました。
このような人が生きて帰ってくれていたら、今の日本ももう少し変わっていただろうと思いました。



<ブラックコメディ〜プリンズリー>
荒川さんのブリンズリーはずるい奴というより、本当〜に情けない男で憎めない奴です。
成り行きにすぐ流されちゃうみたいだし、情けないし、オロオロするし…。
でも何をするのでも必死で一生懸命なんです。
2人の女性を口説くのも(どっちも好き?…というか嫌いじゃなさそう)、言い訳するのも、家具を運ぶのも。
その必死さが嫌な奴と思われない理由でしょうか?
そのどれ1つをとっても悪気がなくて、裏がなくて、素直なのに困った奴。
なにか可笑しいことをしているのでも言っているわけでもないのに、絶妙な間でくすりと笑わせてくれる事もたびたび。
プリンズリーと一緒にハラハラドキドキしながら、どんな結末にどりつくのか楽しませていただきました。
ベテラン8人での舞台、がっちりスクラムを組んでキャッチボールをしながらの芝居を楽しんでいるようでした。

<はだかの王様〜ペテン師スリッパ>
初め出演を聞いたとき、思いもかけない役にとてもびっくりしました。
だって、あの荒川さんがペテン師 !?
でも、陽気で悪気のない(いや、あるんでしょうけど)ペテン師を見せてくれました。
「(騙されていたって)王様は喜んでいるんだから良いのさ」と言われれば、それもそうかな・・・と一瞬思ってしまうかも?は言い過ぎかもしれないですが、なんともあっけらかんとしたペテン師です。
幕開けの歌での弾けっぷりがとても可愛い(失礼!)
久しぶりのリフトたっぷりのバレエっぽい踊りをたくさん見られました。もしかしたらアンデルセン以来位?
柔らかい動きのダンスが似合いますね。
こどもミュージカルならではの終演後のお見送りでは、子供好きのオーラ満開! とっても嬉しそうに子供たちをお見送りしていました。

<リトルマーメイド〜スカットル>
とても楽しそうに親父ギャグを炸裂させる、陽気で気の良いカモメです。
親父ギャグ好きなのは荒川さんと同じ?
アリエル達から 頼られていろいろ聞かれるのが嬉しくて、なんでも知識を披露してみせて(真偽のほどは怪しいけど)、面倒見が良いところも共通する部分でしょうか。
インタビューでスカットルの知識を披露する様子を「教授のように」と話されていました。
まちがっている情報を教えたりもするんですが、それが後に王子様たちを笑わせたりするんですから何が役立つかわかりませんね。

上品な歩き方のバラエティはとても豊か。鳥らしく羽ばたきながら歩いたり、モデル歩きだったり、縄跳びダンスしながらだったり、毎回どんな歩き方をするのか楽しみ。

密かな見どころはカモメとしてとってもリアルな首の動きや、羽ばたき方。他の役では絶対見られません。
アリエルが倒れている王子様に気持ちを歌うのを聞いている時、
首をかしげながら(鳥の動きで!)真剣な目でじっと見ていたかと思うと「ん?これは?」とう表情をしたり、「困ったね〜」という表情をしたり。
嵐で飛ばされてヘトヘトになりながら舞い戻って来た時の着地の仕方やその後の羽根の動き?もなかなかのものです。
それからアンダーサシーでの裏方さん。セバスチャンが乗っていた大きな珊瑚を押しながら楽しそうにステップしている姿を見るのも楽しみの一つです。

2幕最初のナンバー「マウエムキニ」では絶品のタップを見せてくれます。
他の場面ではひょうきんで陽気なカモメですが、タップを踏んでいる様子はとてもカッコいい!
粒がしっかりしたタップの音もさることながら、手の動きが優雅。スカットルの髪型(羽型?)が貴族風に見えたりもするのです。
特にソロタップのカッコよさ・軽やかさは見逃せません。

小舟の二人をセバスチャンと見守る所や、最後の花吹雪を撒いている時も、真剣だったり暖かだったり楽しげだったり。
やはり世話好きで温かく見守るスカットル
アリエルがうまく王子様にコンタクトをとれないのを心配しての「でも、なんとかしなくちゃ!」という言葉が本当に心配しているのが伝わってきます。

最後花嫁姿アリエルの旅立ちも、とても暖かなまなざしで見守っています。


<リトルマーメイド〜セバスチャン>
                                                                    
アリエルの事を本当にかわいく思っていながら、トリトン王にも忠実でありたい。その狭間で右往左往している優しい執事です。
アリエルの声をほめたたえる時は歌うような節回しで言っていて音楽家らしい。
厳しさを装っていても、甘えたようにアリエルにお願いされるとニコニコしてしまう。すぐに我に返るんですけどね。アリエルとのやり取りは楽しいです。
愛情あふれる様子があちこちで感じられます。

トリトン王祝いの席での晴れがましい場をアリエルが忘れていた事を怒る時、足を強く踏み鳴らしながら近づいて行ってトリトンも引いてしまうほどの勢いで怒っているのも可笑しかった。それでもアリエルには堪えていないようですけどね。(そしてむそれを許してしまうセバスチャン)

なんといってもアンダー・ザ・シー! 何度聞いても絶品で、本当にわくわくして踊りたくなって晴れやかな気持ちになれます。荒川さんの明るくて華のある歌声がとっても良く似合います。
荒川さん独特のメロディも歌っててとても楽しかったんですが、途中から歌わなくなってしまいました。楽しくて素敵だったのに残念!
最初荒川セバスチャンでこのナンバーを見た時、「セバスチャンが踊ってる!!」と思ってしまいました。 他のセバスチャンも同じ振りをしていたはずですが、何故か荒川さんの時には“踊ってる”と強く思ってしまったんですよね。
以前何かのインタビューで「ふとした仕草でも踊りを感じてもらえるようになりたい」と言っていたのを思い出しました。

キスザガールで、ボート上のアリエル達を見守る様子も楽しくて。水草?をマイクに見立てて扱ったり隠れているのも面白いですが、エリックがなかなか名前を当てられない時のリアクションも楽しい。そして当てた時の満足そうな様子 !(こっそり教えたのはあなたよね)

フィナーレで白いドレスを着てエリックと並ぶアリエルを見るなまなざしは本当に優しい。
グリムズビーと会釈もしていたし、この後執事どうしどんな話をしたのか聞いてみたい気もします。


<サウンド・オブ・ミュージック〜マックス>
                                                                       
第一印象は、気の良い・調子も良い・明るいザングラーさん。ちょび髭も生やしているし話し方も似ているからでしょうか。
何度も見た映画のイメージではただ怪しい人でしたが、
荒川さんのマックスを見て、表向きには陽気に軽く見せながら実はとても頑張っている偉大な大人だった事がわかりました。

登場時は大佐の家の電話でちゃっかり仕事の長電話をしながら「このためにここに来ている」「金持ちっていいね〜」なんて調子のいい事をいいながら
でも大佐もそんな言葉を軽く受け流していて、対等に付き合っている仲の良い友人という信頼関係が見えるよう。
二幕初めころまでは調子の良さ全開での軽いやり取り。話し方や仕草で笑わせてくれることもしばしば。
子供たちを音楽祭に出すため、子供たちに振り回されながら合唱指導をするマックス。も右往左往している様子も可笑しくて。
へろへろになりながら1フレーズだけマックスのヨーデルを聞くこともできます♪ ちゃんと聞いてみたいなと思ってしまいました。

調子のいい商売人に見えるマックスですが、子供たちを音楽祭に出そうとしているのには真面目な理由があるらしい。
出演を断る大佐に真顔で「オーストリアのためなんだ!!」 真剣な声でした。
もしかしたらあちこちに出掛けていたのは、歴史あるザルツブルグ音楽祭で確実に1位になれるオーストリア人を国中探していたのかしら。
不利な状況でもなんとかオーストリアの誇りを残そうと奔走するマックス。
いつの間にか文部省第一書記になっていたり、音楽祭も文部省主催になっていたり。
戦時下でも無事開催できるよう、打てる手はすべて打っている感じでした。
ナチスをひたすら拒否する大佐に対して、柳のようにしなやかな、したたかとも言える方法でオーストリアの誇りを残そうと頑張っているマックス。
祖国を思う気持ちは一緒なのに、頑なな大佐の態度で積み上げてきたものがダメになるかしれない。
大佐との会話の中にそんな苛立ちも見えるような気がしました。
音楽祭のアンコールでトラップ一家がおやすみなさいの歌を歌っている間のマックスの気持ちはいかばかりか。
無事に逃げ延びてほしいという想いと、音楽祭も成功させたいだろう想い、一家が逃げ延びたとして自分がどうなるかわからないという不安。
立っているその表情を見ているだけで胸が苦しくなってしまいました。

思いかけずマックスの想いの奥の深さを見せてもらえた舞台。
カーテンコールでは皆でドレミの歌を合唱。荒川さんはノリノリで歌っていて、明るい気持ちで見終えることが出来ました。
出来ればマックスを中心にしたドラマも見てみたいという気持ちになりました。


<〜>
                                                                       




<番外編:太陽の日曜日〜>

1974年、あるテレビの歌謡番組で
その月にデビューした「今月の新人賞」を決めるコーナーがありました。
その日はほとんどが女性で男性アイドルは一人だけ。
何気なく見ていた私は、
いつの間にかその時出ていた男性アイドルに好意を抱くようになっていたのです。
その時はまさか20年を軽く超えるお付き合い(?)になるとは想像もしていませんでした。
(様々な情報に出会って知らせてくれた 友人たちに感謝)
ふっくらした優しい顔と独特のハイトーンの声。
そして爽やかで柔らかな雰囲気。
彼は私にとっていつも隣にいてくれる同級生のような(*^^*)アイドルでした。
そう、それが「太陽の日曜日」でデビューしたばかりの
荒川務君だったんです。

アルバムの曲の中にこんな内容の歌詞がありました。
青春は2度と来ないから 今この時を大切にしよう
暗闇の中で 手探りの俺だけど
自分の手で切りぬけるのさ
途中で道に迷うこともあるだろう
まわり道をしても 自分の道さ
わき目もふらずに 長い道突っ走れ
地平線を越えていこう
大きな翼ひろげて大空へはばたけ
俺達の時代
  (From TAKE OFF!)
そして今彼は、
まさにミュージカルという大空を自由に飛びまわっています。




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